(このお話は私の友人の話であり、本人の希望により掲載しています。プライバシーを守るためあいまいな表現を使うこともありますが、ご了承ください)
(養育費をもらうと決めるのに10年かかりました③~焦りと自己肯定感〜の続きです)
離婚から10年目にして、養育費の請求調停をしていたAさんのその後のお話です。
+++養育費請求の調停を終えて、Aさんの選択+++
「調停が終わったよ!」
成:「Aさん、お疲れさま!初めてのことで緊張したでしょ?」
「うん、裁判所に向かうときが一番怖かった。駐車場で元夫と会ってしまったらどうしようとか」
「だけどそうならないように、控室の階を別々にしてくれたし、帰りも私が先に帰れるように調整してもらえたよ。調停員の方が入口まで送ってくれたから、安心できた」
成:「安全や気持ちの部分も配慮してもらえたんだね」
「調停員の方って、公平な立場だから冷たいイメージがあったのだけど、そうじゃなかった」
「今回は息子の養育費のことだったけど、流れとして上の子のことも聞いてくれて。調停員の方も立場的に言えないことがたくさんあると思うのね。けど、上の子のときは残念でしたねって言ってもらえて、ほっとしちゃった」
成:「上の子のことも話すことができたんだね。思い出したくないこともあったと思うけど、話したことで調停員さんにより状況が伝わったのかも」
ここにくわしく書くことはできませんが、Aさんは上のお子さんと元夫さんの、親子の不仲でずっと心を痛めてきました。
上のお子さんの時は養育費を請求しなかったとのこと。
それが原因ではないようですが、上のお子さんは息子くんと違って離婚後の交流はないそうです。
「調停員さんは親身になっていろいろ提案してくれて。養育費の支払い期間も、高校卒業までかなと思ってたんだけど、息子が22歳の大学卒業相当まで支払ってもらえることになった」
成:「一回の調停でそこまで決まったんだね。もめたり、長引かなくてよかったんじゃない?」
「実は引っかかっているのはそのことで。みなさんよくしてくださったけど、なんか…」
Aさんの話によると、元夫さんは調書に養育費の最低金額を書いてきたそうです。
息子くんに払うと伝えた金額より少なかった。
最終的には養育費算定表(ネット検索するとすぐ出てきます)の中間金額を元夫さんは提示したそうですが、調停員の方たちはAさんに対して、「もっと金額を上げても交渉しますよ」とAさんに言ってくださったそうです。
さらにAさんは養育費請求しかしていなかったのですが、調停員さんは大学進学費用にも言及してくださったとのこと。
結果としては、進学が決まってからまた調停にて交渉するとの話になったらしいのですが。
Aさんは息子くんに何と伝えようか、悩んだそうです。
「調停で決まった養育費の金額を息子に伝えたら、とてもほっとしている様子だった…。だから『お父さんが言ってくれた通りの金額で決まってよかったね』って声を掛けたら、『うん』と嬉しそうで。とてもじゃないけど元夫が金額を交渉してきたなんて言えなかった」
成:「Aさんは息子くんの気持ちを優先させたんでしょ?」
「そうだけど。私が元夫の提示した金額を受け入れたからもめなかっただけなのに、息子は『やっぱりお父さんが正しい』と思っているんじゃないかって。また私一人が汚れ役みたいな気持ちになってしまって…」
成:「Aさんは、息子くんがお父さんのことが好きな気持ちを守った。息子くんに対しての大きな愛情だと思うよ」
Aさんは自分の怒りを、息子くんのために抑えたようでした。
本心では息子くんに、自分の味方になってほしい、本当のことを知ってほしいと思っているのでしょう。
私が離婚をしたときも同じように感じていました。
「子供のことを一番に考えているのは私だ!!」
そう考えていたので、その気持ちを子供にだけはわかっていてほしいと思うのはよくわかります。
けれどAさんの息子くんは、父親・母親どちらが悪いとも思いたくないからこそ、悩んできました。
Aさんは、そんな息子くんの、父親を慕う気持ちを守ったわけです。
一方で、Aさんの『子供のためでも納得できない気持ち』も、なかったものにしないで大事にしてあげてほしいと伝えました。
成:「そんなのモヤモヤするに決まってるよ。本当は悔しいって思っていいんだよ」
Aさんは息子くんを傷つけないことを選びましたが、自分で選んだのだからつらくても仕方ないなんて思いません。
息子くんへの愛情からその選択をしたということはもっと誇っていいことですし、そこに生じたつらい気持ちを一人で抱えなくてもいいと思います。
人の行動動機には、愛によるものと復讐によるものがあるそうです。
Aさんがもし、調停でのありのままのやり取りを息子くんに伝えていたなら、お父さんへの不信感をもったかもしれません。
元夫さんへの復讐にはなるかもしれませんが、Aさんはそれですっきりするでしょうか。
私からAさんを見てですが、もし起きたことすべてを伝えたなら、Aさんはショックを受けた息子くんに対して罪悪感を感じるように思います。
Aさんも息子くんも傷ついてしまったかもしれません。
愛からの視点で行動したAさんをほめてあげたい!!
成:「この調停がきっかけになって、息子くんの気持ちが少しずつでも晴れるといいね」
「そう願ってる。今回こんなに大事になってしまったけど、いつかは親子の関係性に向き合う必要があると思っていたから。それが社会人になる前の今でよかったのかもしれないと思って。焦りすぎないようにしたいよ」
調停を終えて、息子くんの心はまだ元気になる途中ではあります。
だけどAさんがこれほど悩んで、息子くんと一緒に進もうとしていることは、伝わるのではないかと思いました。
+++その後の話+++
その後も息子くんは学校には行けていないとのことでしたが、それを話すAさんは調停前よりスッキリとした表情をしていました。
そんなAさんが話してくれたことで、印象に残ったお話がありました。
「今までね、息子の幸せを本当に願っているのは私だけだ!思っていたんだけど。今回調停をして、形は違えど、元夫も本人なりに息子を愛しているのだと思った」
「元夫に対して、息子にとって余計なことをしたと、怒りは覚えるよ。元夫がそんな自己主張しないで、息子に進学費を出してあげると初めから伝えたら、こういうことにはならなかったとは思うんだけど」
「でも、元夫が息子を大事に思っているからこそ、わかってほしいという感覚もあるんだよね。私も同じだし、わかってほしいということは、その人なりの愛情があるということ」
「息子には、形は別々かもしれないけど、両親に愛されていることを知ってほしい」
たしかに愛情表現の形はそれぞれなのだと思います。
その人なりの愛情というのは、なかなか周りは理解することができないかもしれません。
元夫さんは元夫さんのやり方で、AさんはAさんのやり方で、息子くんに手を差し伸べているのでしょう。
Aさんはそのことに気付くことができたそうです。
両親の間にはさまれて悩む息子くんにとっては、Aさんのその気づきは、自分の気持ちを理解してもらえたと感じるるのではないでしょうか。
まだ息子くんの心の回復には時間がかるかもしれません。
歯がゆく感じることもあるでしょうが、Aさんには子供のことはすべて自分のせいだと、罪悪感を感じないでほしいと心から願います。
Aさんも息子くんも周りにたくさん手を差し伸べてもらっていいですし、私もその一員でいたいと思います。
最終話までご覧くださり、ありがとうございました!