(このお話は私の友人の話であり、本人の希望により掲載しています。プライバシーを守るためあいまいな表現を使うこともありますが、ご了承ください)
(養育費をもらうと決めるのに10年かかりました①~離婚と子供について〜の続きです)
+++養育費の請求のために実際に行動したこと+++
成:「Aさんは息子くんのためにも、今から元夫さんに養育費を請求することにしたんだよね。だけど離婚から10年もたって養育費を請求するのって簡単なことなの?」
「そうね。ネットで調べたり人に聞いてみたのだけど、よくわからなくて。だから住んでいる市の無料法律相談にすぐ行ってみたの」
成:「無料や定額で弁護士さんに相談できる制度っていくつかあるよね。住んでいる地域によっても違うけど」
「そうそう。正直、調停に向けて弁護費用を払うつもりで相談したの」
「どのくらいかかるのかと、近くの弁護士事務所のサイトを見つくして、覚悟して弁護士無料相談に行ったよ」
成:「弁護士費用の負担は不安要因として大きいよね」
「だけどやっぱり専門家に話してよかったと思った!状況別にこの場合は難しいとかくわしく教えてもらえたし、養育費というのは義務だから、相手の状況がどうであれゼロではないみたい
「逆に、養育費の算定表以上は難しいこともわかった。就職とか進学の状況によって調停ではちゃんと考慮してくれるらしいのだけど、理由を提示していつまでの養育費を希望するのか期日を明確にしたほうが、裁判所も決めやすいと教えてもらったよ。弁護士さんにお願いしなくても、調停申し立ての手続きだけなら用紙に記入するだけだし、費用も印紙と切手代ですむって」
成:「離婚から年数が経っていたり、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても問題ないんだ!」
「そうみたい。だけど、もらわなかった今までの分をさかのぼることはできなくて。養育費の申し立てをした時点からの支払いになると聞いたよ」
成:「じゃあ早く申し立てをしないと!!Aさん、そうやって色々調べる間も不安だったでしょう?お母さんがそうやって自分のために動いてくれたこと、息子さんに伝わっているのならいいなと思う」
息子さんはお母さんが自分のために動いていることを感じてはいるとは思います。
だけど言葉でも伝えてあげていいかもしれません。
子どもの負担にならないよう、苦労の部分ではなく、こんな準備があるよというのはその都度話せると、親子がお互い一人で悩むことが減るかもしれません。
息子さんだって、どのくらいお母さんに負担をかけるのかと思っているからこそ、自分の将来を直視できないこともあるように思いました。
+++子供の登校拒否と癒着+++
「養育費の申し立てについては進んでいるんだけど。どうしても、学校に行けない息子に対していら立って、責めるようなことを言ってしまって…」
「出席日数が足りないと、大学の推薦入試が受けられなくなるよ!とか。そんなの息子だってよくわかっていると思うし、進学できなくて辛いのは私じゃなくて息子なんだけどね」
成:「つらいときって、近い関係ほど怒りをぶつけてしまうよね。けど、どんなに子供の心配をしても親が代わってあげることはできないから。私も気持ちの行き場がなくて相手にぶつけてしまうことがあるよ」
成:「子供のことを自分のことのように感じてしまうのも、よくわかるなぁ・・」
親と子供は心理的に癒着しがちです。
癒着とは、その言葉の通りピッタリくっついている状態のこと。
子供の状況に胸を痛める、それはとてもよくわかります。
Aさんもどうにか息子くんが学校に行けるようにしてあげたい、毎日心が痛くて仕方がないと言っていました。
けれど自分が感じている痛みを、子供も同じように感じているかというと、全く同じではありません。
同じではないのに、親が感じたことを基準に子供に働きかけると、子どもはわかってもらえていない、コントロールされていると感じることもあるようです。
Aさんの話ですと、Aさんが子どもに学校に行って欲しいと思うのは、子どもにやりたいことをして欲しいというAさん自身の想いから。
それが叶わなくて苦しいのは、Aさんの気持ちです。
そのつらさには、自分がもっとうまく立ち回れていたらとか、子供を守れなかったという罪悪感が入っているかもしれません。
一方息子くんも、自分の夢が叶わなくなるのは辛いし絶望を感じるように思います。
そのほかに、応援してくれているAさんを悲しませた痛みや、父親を好きな気持ち、離婚をした両親への怒りという葛藤が上乗せされているかもしれません。
(引きこもるのは、怒りの表現の一つでもあります)
だとしたら、Aさんがこの状況をなんとかしなきゃ!と必死になればなるほど、息子くんはAさんの期待にこたえなければ!と、登校できない自分を責めるかもしれません。
登校できるように、というのは共通の想いなのですが、痛みの内容は全く同じではないのです。
それをわかっていないと、親は自分の心の痛みを取り除こうと動いてしまいます。
例えば私の息子が以前、短期間の登校拒否になったとき、とりあえず学校に行けるようになれば安心だと思っていました。
でも親に言われてとりあえず登校している息子の心は痛みでいっぱいのまま、また不登校をくり返したことがあったのです。
+++親の怒りと子供の怒り+++
ややこしいのですが、親と子供の心の中身はまったく同じではないとはいえ、身近な人が同じ感情を感じていることは多くあると思います。
感情は共鳴するからです。
Aさんと息子くんのどちらもが大きな『怒り』を感じているようでした。
「今回のことで息子に言われたことがすごくショックで。反射的に怒り返してしまって、反省中…」
成:「なんて言われたの?」
「私なりに最善をつくしてきたつもりだったのに、『お父さんもお母さんも同じくらい信用できない』って」
「思わず『離婚してから一人で育ててきたのに、父親と同じってどういうこと!??納得できない!!』って言い返しちゃった」
成:「そっか…。同じだなんて言われたら私でも腹が立つし、悲しいよね」
「本当に悲しかった。だけど息子からしたら、自分の気持ちをわかってもらえないという部分においては、私も元夫も同じだったかもしれない」
成:「息子くんは自分の気持ちをわかってほしくて怒っているんだね。何をわかってほしいんだろう?」
「たぶん、親が離婚をしたから悪いんだって怒っているんじゃないかな。そんな話を以前聞いたことがある。大人は勝手だと思っているのかもしれない」
「でもね『元夫と一緒にいられない理由があったのに、わかってもらえない』って、私自身も息子に対して怒りを感じてる」
「シングルマザーとして苦労をしたのは元夫じゃなくて私なのに、わかってもらえていなかったんだと、息子に裏切られたような気持ちになったの」
それぞれが「わかってくれない!!」と腹を立てている状態で、裏を返せばわかってほしい相手だからこそ怒りになってしまっているのかもしれません。
「元夫にもものすごい怒りがあるよ。言いたいことはたくさんあるけど、目の前にいるわけでもないし、連絡なんか取りたくないし。元夫に対する怒りが込み上げては、怒っている場合じゃないって、息子のために冷静になろうとしてる」
どうやらAさんは息子くんの気持ちを優先しなければと、自分の気持ちは後回しにしているようでした。
けれどそうやって抑えた怒りは、周りへ影響を与えます。
これは受動攻撃といって、心で怒ったままで「怒ってないよ!」と言っても、怒りは伝わってしまい相手も怒りを感じることがあるのです。
成:「息子くんに怒りをぶつけるわけにはいかないけれど、怒りを感じてもいいんだよ。いつでも話を聞くから、怒っちゃいけないって自分を追い詰めないでね」
怒りとは、ただ腹が立っているというだけではなく、自分が感じたくない感情のフタになっているという一面もあります。
私から見てAさんは、子供を守れなかったと自分を責めているように見えましたし、その怒りからは悲しみを感じました。
成:「息子くんのことが心配でいてもたってもいられないとは思うけど、まずは自分の気持ちに目を向けてみたらどうかな?Aさんが自分の気持ちを無いもののように扱うと、息子くんも自分の気持ちを出しにくくなるよ」
「だけど息子に出してしまうのが嫌だから、我慢するしかないって思ってる」
成:「感情を出すのって、誰かにぶつける方法だけではなくて、『自分は今、○○に対して怒っているな』『泣きたいけど周りを心配させないように、我慢しているな。でも悲しい』とか、出てきた感情をそのまま認めてあげてもいいんだよ」
「なんだかそれって、今の息子に教えてあげたいかも」
成:「それもいいね!じゃあまずはお母さんがやってみないとね。簡単そうだけど意外と難しいよ~」
息子くんの気持ちにばかり目を向けていたAさんでしたが、自分のケアも必要だということに気付いてくれたようでした。
誰かを責めてしまうときは自分を責めているときです。
自分の怒りを受け入れて認めてあげることが、結果として息子さんへの怒りを軽減するのではないかと思います。
(養育費をもらうと決めるのに10年かかりました③へ続きます)